剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「わかった、許可しよう。ただし今日中に戻ってきて報告を済ませるように」

「承知しました」

 改めて背筋を伸ばし、しっかりと返す。セシリアは書類にあった情報を頭に叩き込み部屋を出た。

 中庭をぐるりと囲んで建てられた城の構造上、国王の主な活動場所となる執務室や謁見の間などは城門から最奥に置かれている。

 必然的にアードラーの部屋も王に近いところに配置されていた。他にも使用人たちの居住空間や食堂、大広間などいくつもの用途を目的とした部屋がある。

 長い廊下につけられた窓はどれも高い位置にあり、そこから降り注ぐ太陽光を内部で上手く反射させ明るさを保っている。

 いくつかの出入り口から中庭に出られ、中と外の橋渡し的な回廊は何本もの芸術的な柱とアーチ型の天井が見事だった。

 外に出て、アルノー夜警団専用の厩舎に向かい厩役(うまややく)に声をかける。彼は馬房からセシリアの馬を馬具をつけた状態にして連れてきた。

 馬は穏やかな瞳で主人を見つめると、ゆっくりとセシリアのそばに寄る。

「シェッキヒ。今日もよろしくね」

 優しく顔の部分に触れると、鼻息で答えがあった。セシリアの馬は栗毛色で四肢や顔など所々白色になっており、人間年齢で言えば中年ほど。

 少なくともセシリアよりは年上だ。やや気性が荒いところもあるが、年齢と共に落ち着いてきた。彼女の大切なパートナーだ。

 セシリアは軽い身のこなしで馬に乗り、ゆっくりと歩みを進めた。
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