剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 アルント城は街を見下ろせる山の高い位置にあり、街へ行くためには馬を使う必要がある。

 歴代に渡り増築を繰り返した結果、要塞を兼ねた石造りの頑丈な面と宮殿としての華やかさを併せ持ち、高さの揃わないいくつもの尖塔の青い屋根が目を引いていた。

 日光を浴びた城は黄金色に輝き、王家の威光を放つと人々の間では言われている。

 昼過ぎに先日も訪れたウリエル区に入り、最寄りの夜警団の屯所に馬を預ける。セシリアは頭の中にある地図を思い出しながら目的地に向かった。

 城を最北に、王都は四区画に分かれていた。ウリエル区は南東に位置し、南にはドゥンケルの森と呼ばれる、あまり人の立ち入らない場所も有している。

 アスモデウスと会えるという噂の森だ。

 アルント王国自体が自然豊かで広大な土地を持ち、おかげで食糧には恵まれていた。人々は穀物や野菜などを自分たちで育て、生計を立てていたりする。

 今日は天気が良くて助かる。春の陽気と呼ぶにはまだ肌寒さが残るが、日中は十分に温かい。角を曲がり、路地の奥にお目当ての場所を見つけた。

 広さはあるが装飾もなくシンプルな石造りの建物だ。玄関口にあたる正面はすっきりしているが、屋敷の奥は欝々とした緑が生い茂っている。扉が開けっ放しになっているのでノックができない。

「ごめんください」

 大きくはないが凛としたセシリアの声が通る。ちらりと視界に入る白のカーテンが風でかすかに揺れた。ややあって中から人がやって来る気配を感じる。
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