剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「手を顔に近づけられた際、かすかに消毒の香りがしたのもあって閃いたんです。わざとだったんですよね? それに元帥にかけた言葉から、少なくともあなたがこちらの正体に気づいている節があった。そうすると『次はストールくらい羽織ってこい』という発言もあなたの職業と合わせると納得できました」

「正しい指摘だったろう?」

 あのとき仮面から覗いていた瞳は今はモノクル越しに細められている。対するセシリアの表情は涼しげなものだ。

「ええ。ですが気づくのは医師であるあなたくらいですよ」

「お前の腕はたしかに細いが、余分な脂肪もなく筋肉があってしなやかだ。普通の貴族令嬢ではまずありえない。それこそ馬に乗り、剣を持つのが日常茶飯事でもなければな。次は隠しておけ」

 彼からのアドバイスは素直に受け取っておくとして、セシリアはジェイドをじっと見据えた。ウリエル区で医者として働いているのはふたりいるが、もうひとりは女性だった。

「こちらの説明は以上です。今度はそちらの種明かしをしていただけませんか?」

 セシリアは鋭い視線をジェイドに向ける。ジェイドは背もたれに体を預けわざとらしく姿勢を崩した。

「明かす種などないさ。俺は最初からお前を知っていたからな」

 まさかの返答にセシリアは目を白黒させる。瞬時に自分の記憶を辿ってみるが、この男に関して覚えがない。

「……どこかでお会いしましたか?」
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