剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 不必要に権力や武力を誇示することはしない。団員は城に身を置く者も合わせて三百人ほど。夜警団のトップは双璧元帥(アードラー)と呼ばれ、基本的にふたりの人間が務める。

 現国王クラウス・エーデル・ゲオルク・アルントが若くして王座に即位したのとほぼ同時期に今のアードラーも任命された。

 スヴェン・バルシュハイトとルディガー・エルンスト。どちらもクラウスの幼馴染みであり、剣の腕も確かだった。

 そしてふたりの男は実に対照的だった。黒髪に目つきも鋭く、無愛想で他者を寄せつけない雰囲気で、冷厳冷徹さを貫くスヴェン。

 対するルディガーは温和で話術にも長け、色素の薄い茶色い髪と同じダークブラウンの瞳は常に細められているイメージだ。

 セシリアはルディガーの副官だ。この立場は彼女がアルノー夜警団に入団したときからずっと変わらない。

 王都を中心に国中に団員は配置されているが、アルント城で、王の近くで生活する団員は限られている。アードラーは言わずもがな。必然的にセシリアの生活拠点も城だ。

 セシリアは部屋を出て、アードラーに宛がわれた執務室へと向かう。今日は自分よりも相手が先に来ている気がした。

「おはようございます」

「おはよう、セシリア」

 案の定、セシリアが顔を出せば中からすかさず返事がある。机に向かい席に着いているルディガーがにこやかな笑顔で副官を見つめていた。

 セシリアはなにも言わず彼の方へと歩み寄る。手にはいくつかの書類が収められていた。
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