剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「彼は……兄と知り合いだったんです」

 その発言にルディガーは目を見開く。セシリアはおずおずと続けた。部下からというよりも個人的に白状する。

「兄は彼と共に医学を学んでいたらしく……兄の私物も見せていただきました。なので色眼鏡な部分もあるかもしれません。ですがっ」

 続きは声にできなかった。ルディガーがセシリアを力強く抱きしめたからだ。

 もしもジェイドがセドリックの知り合いだと先に告げていたら、信用できるという自分の判断を信じてもらえない気がした。

 彼が兄の知り合いだったとは関係なく判断したとしてもだ。言わなくても、納得させる条件は揃っていたからあえて告げなかった。

 けれど結局はこうしてバレたのなら意味はない。副官として信頼を落としてしまったかもしれない。

 全部言い訳だ。セシリアはルディガーに対して兄の話題を口にするのが怖かった。

 いつも冷静で、基本的に余計な感情を挟まないセシリアだが、兄に関してだけはルディガーに対し、どうしても部下と個人との境界線で対応を迷ってしまう。

「シリー」

 ルディガーはセシリアの頬に両手を添え、額を重ねるとまるで子どもに言い聞かせるように話しかけた。

「俺に気を使わなくていい。それこそ他の男とこそこそされる方がよっぽど腹が立つ」

「毎回、飛躍しすぎじゃないです?」

 セシリアがいつもの調子で返すと、ルディガーも余裕のある表情に戻る。

「言ってるだろ。俺はいつでも本気だって」

 セシリアは呆れつつも、お互いに纏う空気が落ち着きを取り戻してきたので、かすかに笑った。ルディガーとしても、セシリアの気持ちも気遣いも全部わかっている。だから余計にやるせなかった。

 そっと彼女の頭を撫でる。いつもなら不服を唱えるところだが、このときのセシリアはなにも言わずに受け入れた。
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