剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「早速ですが、報告をかまいませんか?」

 机を挟んで真向かいに立ち、セシリアは決まりきった文句を告げた。

「どうぞ」

 ルディガーもいつも通り机に肘をつき、指を組んで聞く姿勢を取る。口調は軽いが表情は真剣そのものだ。

 下の団員から上がってきた案件、近隣諸国の気になる動き、来客予定など一通りを述べた後、最後にセシリアは付け足した。

「ホフマン卿から夜会への案内状が届いていますよ」

 それを聞いて、ルディガー面様が急激に曇った。ここ最近、彼はホフマン卿の屋敷で開催される夜会にほぼ毎回招待されている。

「随分、熱心にお誘いされていますね」

 それとなくセシリアが水を向けると、ルディガーがため息混じりに口を開く。

「ホフマン卿に、というより彼の娘のディアナに気に入られてね。彼は夜警団に対して理解もあるしウリエル区では有力な権力者だ。無下にできない」

「バルシュハイト元帥が結婚を公にしたのも影響しているんでしょうか」

「だろうね」

 ルディガーは眉尻を下げて困惑気味に笑った。

 アルント王国では男女ともに十五で結婚が認められ、その際に重要視されるのは王の署名が入った結婚宣誓書だ。神を前に愛を誓い合う者は少なく、国王がいかに絶対的な力を持つのかを示している。

 結婚も離婚も書類一枚の提出で成立してしまうので、国民にとって結婚に対する意識はそこまで重くはないのも事実だ。
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