剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 そう感じるのはルディガーがセシリアに合わせていたからなのだと気づいたのはかなり後の話だ。

「ねぇ、せっかくだから剣の相手をして欲しいの」

 格好に似つかわしくない発言がセシリアの口から飛び出し、ルディガーは目を丸くする。

 セシリアは長い金の髪をゆるやかに後ろでひとつにまとめ、体のラインがくっきりとわかるシンプルな濃紺のワンピースを着ていた。

「今、ここで?」

「うん。お願いできる?」

 ようやく見せた屈託ない笑顔にルディガーは頬を掻く。しばし迷ってから胸に手を当て、まるでダンスパートナーの申し出を受けるかのように軽く頭を下げて微笑んだ。

「もちろん。お姫様」

 当然、本気で相手をするつもりはない。間合いを取り一応剣を構える。余裕のある表情でルディガーはセシリアを見つめた。

 しかし、セシリアが自身の細身の剣を抜くと、途端に顔つきが少女のものとは思えないほど鋭く、真剣そのものに変わる。

 綺麗な青色の瞳がまっすぐに自分を捉え、この瞬間ルディガーは彼女が四つも年下の子どもだという事実を忘れてしまった。

 気を抜けばただでは済まない。ルディガーも思わず気持ちを入れ替えた。

 やがてキンッと高い剣同士のぶつかる音が響く。真正面からのぶつかり合いになれば力の差は歴然で、セシリアの顔がわずかに歪む。とはいえ下手に手加減をすればどちらかが怪我をしてしまいそうな緊迫さだ。
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