剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 ルディガーの微妙な葛藤を感じたのか、セシリアが不意に剣を引く。そして、すぐさま空いた左手からナイフが飛んだ。どうやら裾に隠し持っていたらしい。

 完全に裏をかかれたルディガーだが、すんでのところでかわす。ところが次の瞬間、懐に飛び込んできたセシリアがもう一本潜ませておいたナイフをルディガーの首に当てた。

 刃の冷たい感触にルディガーは軽く息を吐く。

「参った。どこでそんな戦術を覚えてきたんだい?」

 セシリアは相好を崩しルディガーからナイフを離すと、わずかに距離を取った。

「兄さんとね。剣技だけじゃどうしても男の人には勝てないだろうから、頭を使おうって話になって」

「セドリックも妹に大胆な技を教えるね」

 やれやれとルディガーは肩を鳴らした。

「得意なナイフ投げを活かしたの。なによりあなたが負けたのは、私を見くびっていたからよ。まだ子どもだって、妹みたいだからって」

 最後は口を尖らせ、あてつける。ルディガーは困惑気味に笑った。図星だからだ。

「負けたとは思いたくないが……。ただ実際、大事な親友の妹に傷をつけるわけにはいかないよ」

 セシリアにとって、ルディガーの返事はいたく気に入らなかった。

 否定して欲しかったのに、あっさり肯定されふくれっ面になる。そういうところがまだまだ子どもなのだと、今のセシリアにはわからない。

「でもまた腕を上げていて正直、驚いたよ」

「……ありがとう」

 素直に褒められ、迷いつつもお礼を告げる。追いつかないと思っていた相手から少しでも認められたのならやはり嬉しい。
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