剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「アルノー夜警団に入団したら、セドリックじゃなくてシリーに俺の副官になってもらおうかな」

「本当!?」

 なにげないルディガーの発言に、セシリアは詰め寄る勢いで感情を露わにする。おかげですぐにルディガーは失言だったと気づいた。急いで声のトーンを落とす。

「冗談だよ。セシリアは入団するべきじゃない。ヴァン師匠(せんせい)もそういう意向だろ?」

 父親の名前まで出され、セシリアの表情はすぐさま曇る。

 アルント王国では男女ともに十五歳から結婚が認められ、アルノー夜警団への入団も十五歳からだ。

 誕生日というはっきりとした概念はなく、だいたい生まれた季節が巡ってくると年をひとつとる。ちなみにセシリアは春生まれで、白くて小さい花を咲かすフューリングが可憐に存在を主張しはじめる頃だ。

 結婚に関しては、身分の高い者は家柄や親の意向が強く働くが、庶民は好き合った者同士でするのが通例だ。

 セシリアには父がアルノー夜警団のアードラーの肩書きを背負っているのもあり、それなりの縁談話も舞い込んできた。

 しかし父は娘の結婚に対し、身分や繋がりの強化などの思惑は一切なく、無理に婚約者を決めるやり方はしていない。

 これは亡くなったセシリアの母の考えや自分たちの結婚した経緯も関係している。とはいえ妙齢になれば娘には早く結婚して欲しいと願っていた。

 母親もおらず、自分もいつどうなるかわからない身だ。父親としては早く安心できる相手に任せたいというのが本音だった。
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