剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 その意に反し、幼い頃は兄と同じく剣を教えてもらっていたのに、十歳を過ぎた頃からセシリアはあからさまな兄との扱いの差に不満を感じていた。

 夜警団に入団したい!と一度希望を口にしただけで、父からは強く反対された。

「お前には務まらない」「夢見事を口にするな」ととりつく島もない。兄は必然的に夜警団に入ると決まっているのにだ。

 女性も入団は可能だが、なんせ危険が伴う。手放しで勧める親しい者はいないだろう。しかし、セシリアなりにそれも覚悟の上だった。

 兄のセドリックはそんなセシリアの気持ちを上手く汲んでやった。父のいないところでこっそりとセシリアに剣術や戦術の立て方、諜報についてなど、自分の持つ知識を与えた。

 飲み込みの早いセシリアは貪欲にそれらを吸収していく。

 相手が男性なら剣同士のぶつかりは分が悪い。ならば考えて先を読む。相手の思考を、行動を予測して隙をつく。

 強くなる方法はひとつじゃない。兄の言葉が励みだった。

 しかし自分の実力をいくら上げても父も祖母もいい顔をしない。『女の子なら、剣よりも花嫁修行を……』と先ほど祖母にも言われたばかりだ。

「結婚なんてつまらないわ」

「そうかな? 俺はシリーの花嫁姿を楽しみにしているよ。きっと綺麗だ」

 セシリアのむくれたひとり言にルディガーがすかさず歯の浮く台詞でフォローする。けれどセシリアの気持ちが浮上するはずもない。むしろ逆効果だ。

 それを成人間近とはいえ十四歳のルディガーは気づかない。
< 44 / 192 >

この作品をシェア

pagetop