剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 嘘だと思いたかったが、本人に確認すると『そうなんだ』とあっさり肯定された。そこに躊躇いも、気まずさも一切なく、セシリアは改めて思い知った。

 彼は自分を異性として意識するどころか、見たことさえないのだと。

 だからといって、すんなり諦められる気持ちは持ち合わせていない。いいのか、悪いのか。兄が彼の副官を務めるなら、少なくともこれからもルディガーとの付き合いは続いていく。

 それこそ彼が結婚したとしてもだ。

 会いたくて、会いたくない。極力避けようとも思ったのに、やっぱり会うと嬉しくて、心をときめかせてしまう。なのに、結局はこれだ。

 いつになったら割り切れるの? いつになったらこの気持ちをなくせるの?

 自分の気持ちが報われるためにどうすればいいのか、そこまで図々しく考える自信も持てない。

 セシリアは初めてルディガーの婚約者に会ったときを思い出す。兄から彼の婚約者の存在を聞かされた数日後の話だ。

 たまたまルディガーが彼女と一緒にいたところに、兄のセドリックと共に遭遇したのだ。こういうのを想定して兄は自分に先に彼女の存在を教えていたのかもしれない。

 ルディガーはいい機会だといわんばかりにいつもの笑顔をトロイ兄妹に向け律儀に……無神経にセシリアに彼女を紹介してきた。

 自身の身内も夜警団の団員として活動しているというクレンマー卿の娘エルザはルディガーよりもひとつ年下で、おとなしそうな娘だった。

 赤みがかった茶色の髪はまっすぐで光沢がある。ルディガーの肩ほどしか身長がないセシリアとは違い、彼女の背はルディガーより少しばかり低い程度で隣に並ぶと、とてもお似合いだった。
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