剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 エルザはやや腰を屈めセシリアに視線を合わせてくる。そんな気遣いさえもセシリアにとっては気に入らない。

「はじめまして、エルザ・クレンマーです」

「……セシリア・トロイです」

「セシリアちゃんね。ルディガーから聞いているわ。その年で剣の腕がすごくて、頭もいいって。妹みたいに可愛がっているって」

 セシリアはその言葉で頭に血が上り、顔が赤くなる。少なからずプライドを傷つけられた。瞬時に言い返したくなる衝動を必死に抑える。

 彼女とはたったみっつしか違わない。なのにエルザはルディガーの婚約者で自分は妹でしかない。ルディガーがなにか口を挟んだがセシリアの耳には届かない。

「悪いね、ルディガー。先を急ぐから。エルザ嬢もまた」

 セシリアの肩をすかさず抱いたセドリックがフォローをする。セシリアも形だけの挨拶をしてそそくさとふたりのそばを離れた。

 直視できなかったものの親同士が決めたからというのもあってか、ルディガーとエルザの距離や雰囲気はそこまで親密そうなものではなかった。それだけがセシリアを慰める。

 しばらくしてセシリアが言葉とは裏腹の調子で兄に投げかけた。

「素敵な人だったね」

「そうだな」

 心のどこかで否定して欲しかったのを、兄はさらりと肯定してきた。おかげでセシリアは眉をつり上げる。

「でもシリーも十分に素敵だよ」

 すかさず付け足された言葉にセシリアは目を白黒させた。セドリックは改めてセシリアと目を合わせ微笑む。いつもの困惑気味な表情だった。
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