剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 季節が巡り、セシリアは十四歳になった。変わらないと信じて疑わなかったものも少しずつ移ろい、変化していく。気持ちも、見た目も、自分を取り巻く環境さえも。

 真正面からしかぶつけられなかったルディガーへの恋心も、だいぶ自分の中で折り合いがつけられた。エルザと共に会う機会が何度か訪れたのもある。

 彼なりに同性として仲良くして欲しかったのかもしれない。余計なお世話だとイラつくよりも、ルディガーらしくて苦笑した。

 もちろん彼を前にすればまだ胸も痛むし、切なさで苦しくもなる。一方で涼しげな仮面を身につける術も覚えた。

 久しぶりに会ったルディガーには『シリーも大人になったんだな。昔は会えば、すぐに駆け寄って抱きついてきたのに』と残念そうに言われた。

 この年でさすがにそこまでストレートな態度はもう取れない。しても問題だ。彼には婚約者もいるのに。やっぱり自分はまったく異性として意識されていないのだと痛感したが今更だ。

 十八になるのにルディガーはまだエルザと結婚していなかった。夜警団に入団してからずっと忙しくしているからなのか、他に理由があるのかはセシリアの知るところではない。

 その事実にどこか安心している自分もいて、いっそのこと踏ん切りをつけるためにも、さっさと結婚してはっきりと止めを刺して欲しいとも何度も思った。

 セドリックたちは十五の年を迎え、正式にアルノー夜警団に入団した。最初の一年は准団員として訓練を積み、剣の実習や団員としての心構えなどを叩きこまれる。

 そこで脱落する者も少なくはないが、その間に各々の個性や適性を見られ一年後に正式な団員として役に任命されるのだ。

 現アードラーの推薦もあり、剣の腕も申し分なくルディガーやスヴェンは入団三年目にして同年代の者で結成された小隊の長を任されている。

 セドリックはそんな彼らをサポートしつつ団員たちへの配慮も怠らない。おかげで彼らの業績はセシリアの耳にも入ってきていた。それはいいことなのか、悪いことなのか。
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