剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 一定の身分以上の者は、書類はもちろん結婚式を挙げるのが通例だった。ルディガーと同じアードラーであるスヴェンが形だけとはいえ結婚式を執り行い、彼の結婚が知れ渡る事態になったのはつい先日の話だ。

 スヴェンもルディガーもタイプは違っても、それぞれ顔立ちは整っており、アードラーという立場も申し分ない。彼らに憧れを抱く女性も少なくはなかった。

 そんな中、手が届かない存在だと思っていたうちのひとりが結婚したとなると、自分にも機会があるのではと考える女性も現れてくる。

 欲しいものは基本的に手に入る貴族の令嬢たちだ。親の力や立場を利用し我こそは、と積極的に行動に移すのも不思議ではない。

 ディアナもまさにそんな女性のうちのひとりだった。

 さらに元々無愛想で近寄り難い雰囲気を纏うスヴェンよりも、愛想よく話し上手なルディガーには本気で熱を上げる令嬢たちも多い。

 実際にルディガーは上手く彼女たちをあしらうが、スヴェンと違って冷たく拒絶したりはしない。

「まぁ、彼女に関してはそろそろケリをつけるさ」

 やれやれと肩をすくめるルディガーにセシリアは、ふと思いついて声をかけた。

「なら、その夜会に次は私もご一緒してかまいませんか?」

 突然の申し出にルディガーは目を見開く。だが、すぐに口角を上げ嬉しそうに笑った。

「なに? 俺の心配をして?」

「情報収集がしたいんです。貴族たちの間で話題になっている件で」

 淀みのない素早い返事に、ルディガーはあからさまに肩を落とした。
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