剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 セドリックの遺体は持ち帰られ、葬儀も滞りなく行われた。

眠っているよう、とはよく言ったものだが兄の死に顔は穏やかでも険しくもなく、無表情に近かった。夜警団として追悼の意を捧げられ、形式的に国王からも弔事を賜る。

 なにもかもがよくあることとして片付けられる。人が亡くなるのも、この現状で団員が命を落とすのも、ありふれた事柄として処理されていく。

 結局、セシリアは最後の最後まで泣けなかった。

 薄情な妹だと思う人間もいれば、さすがはアードラーの娘だと感心する人間もいる。でもそんな外野の声などセシリアにとっては全部どうでもよかった。

 葬儀で遠巻きにスヴェンやルディガーの姿を見つけたが、互いに口は利けなかった。

 クラウスは王家として責任を感じているのか、申し訳なさと悔しさを滲ませ言葉数は多くはなかったが哀惜の念に堪えないと自分たち遺族に声をかけてきた。 

スヴェンは疲れ切った酷い顔をしており、他者を寄せつけない荒み切った雰囲気が痛々しく、かける言葉も見つからない。

 ただルディガーだけは遠巻きに見ただけで、どのような表情をしていたのかさえ確認できなかった。

 ずっと会っていない。負傷した父が職務に復帰し、彼らの様子を窺うもいつも通りだと短く返されるだけだった。

 空虚感が脱けない。時折、ルディガーは大丈夫だろうかと密かに彼の心配をしながらも日々は過ぎ去っていった。
< 52 / 192 >

この作品をシェア

pagetop