剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 明日から、いよいよ自分は副官としてルディガーやスヴェンの元で働く。気持ちは固まっている。

 しかし、どうしてもひとつだけセシリアには引っかかっていることがあった。それを解消するために、我ながらとんでもない行動に出ようとしている。正しいのか、正しくないのかはわからない。

 日が沈み、城には暗闇と静けさが訪れていた。時刻はほぼ真夜中で、セシリアは心許ない明かりだけを頼りに廊下を進み、自分の気配を消してある場所を目指す。

 早鐘を打つ心臓は不安を煽る。そんな自分を叱責しセシリアは目的地に着いた。あるドアの前で細く長い息を吐き、意を決する。

 ところが、ノックしようとする前にドアが先に開いた。険しい顔つきがセシリアを見て、すぐに解かれる。

「どうした、こんな時間に?」

「申し訳ありません、夜分遅くに」

 気配を悟られたのを悔しく思う一方で、小声で謝罪する。部屋の主であるルディガーは迷いつつもセシリアを中に招き入れた。

 城で彼に宛がわれた部屋はシンプルで家具としてはベッドに木製の机と椅子、そして簡素な棚くらいだ。あまり視線を飛ばすのも失礼だと思い、セシリアはうつむき気味に足を踏み入れる。

 ルディガーは団服を着ておらず、首元のゆったりとした白いシャツにモスグリーンのズボンと休む前だったのかラフな格好だ。

 対するセシリアも裾が長く、前留めの淡いクリーム色の夜着に濃紺のローブを羽織ってきた。柔らかい金の髪はかすかに湿り気を帯びている。

 夜警団に入団する前でも、ここまでお互いにプライベートな姿で会ったことはない。
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