剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 セシリアの胸には自己嫌悪の渦が勢いよく回りだし、次第にはっきりとしない痛みも伴ってくる。顔が上げられない。

「……すみません、どうかしてました。忘れてください。私の問題に巻き込んで、お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」

 早口に捲し立て、セシリアは踵を返した。本気ではあったが、賢明ではなかったと愚かな自分を心の中で叱咤し部屋を出ていこうとする。

 ところが、不意に力強く腕を掴まれセシリアは振り向いた。

「で、どうするつもりだ?」

 突然、ルディガーが低い声で鋭く尋ねてきた。

「え?」

「俺が断ったら、誰か他の男のところに行くのか?」

 予想外の質問に、セシリアの心が揺れる。

 ルディガーは空いている手をセシリアの腰に回し、強引に彼女を自分の方に引き寄せた。図らずとも距離が縮まり、向き合う形になる。

「スヴェンや他の男に頼みにいく? それとも断られた後?」

 問い詰める言い方は怒っているのか、呆れているのか。いつも温和な印象のルディガーが自分に向けてくる冷たい感情にセシリアは戸惑う。

 なにも答えられずにいると、ルディガーはセシリアの頤に手をかけ、しっかりと目を合わせてきた。

「答えられないなら質問を変える。どうして俺のところに来た?」

 声や雰囲気、そして強い眼差しに圧倒される。彼の瞳に自分の姿を見つけられるほどふたりの距離は近い。

「答えて、シリー」

 強く促され、ようやくセシリアは口を開いた。

「っ、だって決めたんです」

 感情的な叫びとは裏腹に、頭の中で慎重に言葉を選び、紡いでいく。自分の想いはひとつしかない。
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