剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 その表情は心配そうで、やるせなさそうで。彼の指先がセシリアの頬に触れる。こういうときになにを言えばいいのか、気の利いた台詞ひとつ浮かばない。

 でもこれは愛を確かめ合う行為じゃない。

「私は……後悔しません」

 震える唇で懸命に嘯く。刹那ルディガーは苦しげな面持ちになったが、おもむろにセシリアの額に口づける。まるで兄が妹にするかのような仕草。

 けれど、それを皮切りにキスは顔の至る所に落とされる。瞼、目尻、頬、そして唇へ。壊れ物を扱うかのごとく慎重に、それでいて優しくルディガーはセシリアに触れ始めた。

 ひどくでいい。機械的でいいのに。

『俺が断ったら、誰か他の男のところに行くのか?』

 行くわけない。最初から他の選択肢なんてなかった。とはいえ胸の内にある秘めた想いを悟られるわけにもいかない。むしろこれで消すと決めた。

『きっと後悔する』

『シリーは大事な妹みたいな存在で……』

 ごめんなさい。妹にしか思えない私をこんな形で――。

 おそらく彼は自分を副官にする責任を感じている。それを逆手に取ってこんなやり方は卑怯だ。セドリックの件もあるのに、ルディガーにはさらに重いものを背負わせる。

 全部わかっている。いくら御託を並べてもこれは完全なセシリアのワガママとエゴだ。自分の中のけじめにルディガーを付き合わせている。

 でも、この先なにがあっても私はあなたのために命を懸けるから。あなたが誰と愛し合って結婚して、家庭を築いても。副官として変わらずにずっとそばにいる。

 ――だから許して。

 不意にセシリアの目尻から涙が零れ落ちた。おかげでルディガーの動きが止まる。
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