剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「街での話はおおよそわかりましたが、上流階級の集まる場でどういったものが交わされているのか気になるんです」

 真面目なセシリアに対しルディガーはどうも投げやりだ。

「世の男共が不甲斐ないから、アスモデウスに憧れる女性が出てきてもおかしくはないのかもな。とはいえ所詮は噂話だろ? そこまで気になるのかい?」

「まったく根拠もないのにここまで流布するとは思えません。穏やかな内容ではありませんし……どうも引っかかるんです」

 ルディガーは静かに息を吐く。セシリアが言い出したら意外と頑固なところがあるのを彼は熟知していた。なによりセシリアの直感はよく当たる。

「わかった。せっかくセシリアからデートに誘ってくれたんだ。手配しておこう」

「ありがとうございます。ですが今回はあなたの副官としてではなく“ルチア・リサイト”として足を運びますので、会場での接触はなしですよ」

 冗談交じりのルディガーにセシリアは律儀に訂正する。『ルチア・リサイト』はセシリアが諜報活動をする際に使用する名前だ。

 アルノー夜警団と関係の深いリサイト伯爵家の娘という設定で、きっちりと身分証まで用意しており、万が一に備えても抜かりはない。
 
 ルディガーも会話の流れから理解していたものの、不服そうな顔をセシリアに向け、それにしても、と口を尖らせた。

「ついて来るのは、嘘でも俺が心配だからと言ってほしいね」

「プライベートにまで口出ししませんよ。それに女性の相手はお手の物でしょ? 心配していません」

「俺はいつもセシリアを心配しているのに?」
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