剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 その信念を貫き、セシリアはルディガーの副官を六年務めてきた。彼女も今年で二十二歳になる。

 セシリアとルディガーは任務として恋人を演じる延長で口づけを交わしたりもしたが、体を重ねることはなかった。本当にたった一回だけ。  

 さらにセシリアが諜報活動する中で、標的が異性であっても寝る機会は一度も訪れなかった。セシリアの実力はもちろん、ルディガーの采配も大きい。

 必要以上に過保護なのは、やはり自分を妹分だと思っているからか、副官にした負い目を感じているからなのか、気にはしても、セシリアは聞けなかった。

 聞いたところでルディガーが素直に答える性格ではないのも知っている。

 自分のものだと度々試す真似をするのは、失う怖さを経験しているからだ。セドリックの件でルディガーもスヴェンも深い傷を負っている。

 ルディガーは殊更それを表には出さない。だから余計に、セシリアは彼の前で兄の話題に触れられなかった。

 セシリアの知る限りルディガーはエルザと別れてから恋人や婚約者などの浮いた話はひとつもない。気まぐれに寝る相手がいるのかもしれないが、セシリアにはわからない。

 余計な口出しはしないが、いつか兄の件を乗り越えて本当に大切な人を見つけて欲しいと願う。

 部下であり親友の妹である自分でさえ、すごく大事にしてもらっている自覚はある。過保護すぎるくらいだと何度も思った。

 彼に本当に愛される女性はきっと幸せだ。スヴェンだってかけがえのない大切な相手に巡り会えた。次はルディガーの番だ。

 もうとっくに自分の想いは封印した。痛むのは古傷だ。治ってはいるのに、こればかりはどうしようもない。ルディガー同様、その感情を表に出さずにいられるくらいにはセシリアも大人になった。
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