剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 ウリエル区出身で、家は貴族の服なども請け負う洋裁屋だ。ほどよく繁盛しているが娘のレギーナは生まれつき、心臓が弱くジェイドの元にずっと通っていたそうだ。

 ルディガーは視線を落とし、頭の中で情報を整理していく。

「貴族に町娘。年齢も出身もバラバラ。未婚の者もいれば既婚者もいる。彼女たち同士が知り合い、もしくは共通の知り合いがいるともあまり思えないな。しいて共通点と挙げるなら若い女性というくらいか」

 発見場所がドゥンケルの森なのでクレアを覗くふたりがウリエル区出身なのも理解できる。しかし、彼女たちはなぜドゥンケルの森へ行ったのか。

 ルディガーは顎に手を添え考え込む。セシリアは補足した。

「レギーナは『アスモデウスに会うためにはどうすればいいのか』と周囲に漏らしていたそうです」

「なら、それがドゥンケルの森へ行った理由なのか?」

 セシリアは一度、自分の考えを巡らせる。

「はっきりと確証はありませんが、おそらく……。ただ、資料を見て気になったんですが、後者ふたりについては雨が降った後で発見されたようです」

 幸か不幸か、カルラもレギーナも遺体が獣に荒らされることもなかったが、雨に振られびしょ濡れだった。髪も肌に張りつき、服も水分を含み重たくなっていた。

 淀みなく説明を続けていたセシリアだったが、そこでふと押し黙る。

「偶然、でしょうか」

「雨が降ったことかい?」

 自問にも思えたがルディガーが尋ねてやる。セシリアは素直に頷いた。
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