剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「ええ。それに今の話と、夜会で聞いたアスモデウスに関する噂に似たものが多くて」

 “青年の姿で現れるが、それは最初だけ。実はアスモデウスは蛇になる”“アスモデウスが出現すると雨が降る”

 どれも今の話に当てはまり、奇妙な一致にセシリアの背筋に一瞬なにかが這いあがった。しかしルディガーは冷静だ。

「逆にこの件からその噂話が派生した可能性は?」

「ないとは言えませんね……なら、アスモデウスはどこから出てきたんでしょうか。半年前の件が無関係だとしても、アスモデウスの噂話はその頃辺りからありました」

 ルディガーは腕を組み直す。アルノー夜警団として、事件性や市民の訴えなどがあった場合は追って調査するが、彼女たちの事案に関しては個別で見ればそれほど不審な点は感じられなかった。

 報告だけで済ませておいたものの、並べてみると明確な共通点はないはずなのに、なんとも言えない気持ち悪さが漂う。

「偶然と言えば、雨が降ったとはいえ遺体の状態があまりにも綺麗だったのも引っかかる」

 セシリアはルディガーの言葉に考えを戻した。ルディガーは口元に手をやる。

「変じゃないか? 最初の被害者なんて獣に襲われたわりに致命傷となった首の傷以外に大きな外傷は見られなかった。それに後のふたりもだ」

 ルディガーの指摘にセシリアは資料を再確認した。言われてみればドゥンケルの森は凶暴な獣も多い。ところが遺体はどれも荒らされてはおらず、後のふたりにおいては『まるで眠っているようだった』との証言もある。
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