剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 最初に死因がわからなかったほどだ。事故として処理し、遺族の意向もあったので詳しい検死も行えていない。

「とりあえず、彼女たちの周辺の人間関係や死因について改めて調べてみます」

 言い切り、本日の任務につくべくセシリアは腰を浮かす。

「セシリア」

 しかしルディガーがセシリアを呼び止め、彼女をじっと見上げた。

「また彼のところへ?」

 彼というのがジェイドを指すのだとすぐに理解した。

「ええ。レギーナに関してもう少し詳しく聞いてみます」

 セシリアの回答にルディガーは険しい顔をしたままだ。なので逆に尋ね返す。

「なにか気になることでも?」

「いや、ただ少し心配しているだけだ」

 やや軽めの調子でルディガー姿勢を崩す。セシリアは背筋を正し、しっかりと彼に告げた。まっすぐな眼差しがルディガーに向けられる。

「ご心配には及びません。本業に支障はきたしませんから。失礼します」

 虚を衝かれているルディガーをよそにセシリアはさっさと部屋を後にした。ルディガーは前髪を掻き上げてため息をつく。

 自分の心配内容が彼女に伝わっていないのがいいのか、悪いのか。

 青かった空に今日は雲がかかりつつあった。その色はどうも黒い。太陽を隠すどころか一雨もたらしそうな不穏さだった。
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