剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「偏見の目を向けるな。場所や環境によっては血だって生きていくうえでは、大事なビタミン源なんだ」

 彼を見れば、その瞳は真剣だ。おかげでセシリアは瞬時に考えを改める。皆が皆、自分と同じ食生活を送っているわけではない。

「そう、ですね。すみません」

 自分の価値観だけで世界は測れない。狭い視野は物事の本質を見抜く妨げになる。セシリアにとってどことなくジェイドには兄セドリックに近いものを感じていた。

 ジェイドは少し語調を柔らかくする。

「直接飲むだけではなく、治療のために必要な場合もあるしな」

 そういえば、先ほどまで読んでいた兄の医術をまとめた手帖にも記してあったのを思い出す。

 医術の進んだ国では、針の中を空洞化させたものが発明され、その注射針を通し薬品や血液などを体内に直接摂取できる方法が編み出されたんだとか。

「お、もう順に並べ終えたか」

 ふと、セシリアの元へ歩み寄ってきたジェイドが感心した面持ちで告げてきた。そこでセシリアは、はたと手を止める。

「なぜ私があなたの手伝いをしなくてはならないんですか?」

 文句を言ったところで作業を終えてしまった後なのだから説得力は皆無だ。こういうところは副官気質とでもいうべきか。事務作業もお手の物だった。

「手を動かした方が、頭が冴える場合もあるだろ」

 悪びれもないジェイドにセシリアは軽く息を吐いた。

「それで、あなたはどう思うんですか?」

 遺体が荒らされていない件は解決したとして、彼女たちには他になにか関係していることがあるのか。真正面からジェイドの見解を問う。

「俺は最初の被害者は知らんが、カルラとレギーナはウリエル区の人間だし顔は知っている。そうだな……ふたりとも儚げな感じの美人だった」
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