剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 構えていたところに、あまりにも俗世的なものが返ってきてセシリアは眉をぴくりと動かした。

「なんだよ、その顔」

「いいえ」

 話半分なセシリアにジェイドはさらに付け足した。

「これも大事な共通点だろ。カルラは、夫にもっと痩せて欲しいって言われて食事制限もしていたって聞いた。元々細身なのにだ」

 大柄よりも小柄。肌は白く、ウエストは細く。そういった美的価値観が重要視され翻弄される女性は貴族だけではない。セシリアはなんとも言えない表情になった。

「どうしても細くて、か弱い雰囲気の女性が好きな男性は多いですよね」

「俺はそうでもない。健康美ってものがあるだろ」

「あなたの好みは聞いていませんよ」

「ジェイド」

 やれやれと肩をすくめたセシリアにジェイドはすかさず言い聞かせる口調で告げた。その顔はやや不服そうだ。

「名前で呼べよ。お前は俺の助手でここを出入りしているって設定なんだ」

「その設定はどこで、ですか」

 訝し気に尋ねると、ジェイドはモノクルを一度はずし、両目でしっかりとセシリアを捉えた。そして妖しく笑う。

「これから行くところで、だよ」

 セシリアは目をぱちくりとさせた。

「俺よりも彼女たちにもっと詳しい人物に会いに行くんだ。いい情報が掴めるかもしれない」

 出かける支度を始めるジェイドの後をセシリアは慌てて追う。目を通していたベテーレンの項目を再度目に焼き付けてから。
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