剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「どうされたの? そちらのお嬢さんは?」

 ジェイドは笑顔でセシリアの肩に手を添えた。

「突然すみません。こちらは助手のセシリア。知り合いの妹で医学を勉強したいらしく、うちにちょこちょこ来てもらっているんです」

 セシリアは内心、ジェイドに感心する。嘘を上手くつくポイントはほんの少しの事実を混ぜることだ。そもそも彼の言い分に嘘らしい嘘はない。

 現に彼女はなんの疑いもなく顔を綻ばせた。

「そうだったの。てっきりマイヤー先生にもいい人ができたのかと」

「まだ、当分いいですよ」

 茶目っ気溢れる切り返しを軽くかわしてジェイドはセシリアに視線を向ける。

「セシリア、こちらはテレサ・ブルート先生。俺と同じウリエル区で医者をしていて、薬草や病気の症例などは俺よりもずっと詳しいんだ」

「ただ、あなたより年を取っているだけよ」

 照れくさそうにテレサは笑った。笑い方にも品があって年相応の美しさが彼女にはある。

「初めまして、セシリアと申します」

「初めまして、テレサ・ブルートよ。あなたみたいな若い女性が医学に興味持ってくださって嬉しいわ」

 互いに自己紹介をしたタイミングで、ジェイドがさりげなく切り出した。

「先生のところには若い女性も多いし、迷惑ではなければこちらでもなにか学ばせてやってほしいと思いまして。俺のところに来るのは、どうしても年配者や子どもが多いのですから」

 苦笑交じりにジェイドが伝えると、テレサの顔がぱっと明るくなった。
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