剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「さぁ、ここよ」

 テレサは努めて明るい声で告げ、セシリアとジェイドに笑顔を向けた。セシリアも気持ちを切り替える。テレサが扉を叩くとややあって人の気配を感じた。

「はい。……ブルート先生でしたか、お待ちしておりました」

 中から年配の女性の使用人が顔を覗かせ、テレサを見て納得の表情を浮かべる。そしてすぐさま別の人物が間に入るようにして出てきた。

「こんにちは、ブルート先生!っと、マイヤー先生?」

 ドリスだった。セピア色の髪は大雑把に左下で束ねられ、彼女の動きに合わせて髪先が揺れる。動作が大きいからか、どちらかといえばお転婆で快活なイメージをセシリアは抱いた。

 レモンイエローのシンプルなドレスがよく似合っている。

 ドリスから注目を受けたジェイドは軽く笑いかけた。

「突然、悪いね。にしても俺を知っているのかい?」

「ええ。診てもらった経験はありませんが、ウリエル区の人間ですもの。それに先生、なかなか男前だって評判ですよ。今日はどうされたんですか?」

「ブルート先生の元で色々学ばせてもらおうと思ってね。こちらは助手のセシリア」

 はしゃぐドリスをかわしジェイドはセシリアを紹介した。

「初めまして、セシリアと申します。まだ勉強中で医学に関しての知識はほとんどありませんが……」

「初めまして、ドリス・レゲーよ。姉さんはあまり外出できないから話し相手が増えるときっと喜ぶわ!」

 屈託ない笑顔をドリスは浮かべた。
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