剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 セシリアは不躾にならない程度にドリスを観察する。年は十六と聞いているが、年齢の割には幼い感じがした。一方、人懐っこい雰囲気はどこか憎めない彼女の魅力だ。

 噂では痩せたと聞いたが、元の彼女を知らないとこればかりはなんとも言えない。ただ年相応の体型で、彼女も細身だ。

 室内に招き入れられ、テレサに続きジェイドとセシリアも中に足を踏み入れる。屋敷の大きさや玄関に飾られている絵画、骨董品からなかなか裕福な家なのが窺えた。

「ドリス、お客様?」

 ふと階段の上の方から声がかかり、セシリアはそちらに意識を向ける。そして現れた人物を視界に捉え、大きく目を見開いた。

「あら、エルザ。今日はいつもより調子が良さそうね」

 テレサの発言で確信に変わる。ドリスは明るく答えた。

「ブルート先生と今日はマイヤー先生もいらしてくれたの。それから彼の元で医学を学んでいるセシリアさん」

「セシリア……」

 確認するように女性が呟いた。どことなく妙な空気を察知したドリスがセシリアと彼女を交互に見遣る。やがて女性がもう一度セシリアの名前を呼んだ。今度は確信を込めて。

「……セシリアちゃん?」

 セシリアはやや伏し目がちになり、小さく答えた。

「……お久しぶりです」

 最後に会って何年ぶりになるのか。忘れるはずがない。彼女はエルザ・クレンマー。ルディガーの元婚約者だった。

 エルザは懐かしさに顔を綻ばせ階段を下りてきた。

「すっかり大人になって……。驚いたわ。こんなところで会えるなんて」

 赤みがかった茶色の髪は相変わらず綺麗で腰まである。部屋着にカーディガンを羽織っている姿は儚げで記憶の中の彼女よりもよっぽど艶っぽく思えた。
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