剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
 脈拍が乱れるのを感じ、セシリアは自分を叱責する。なにをこんなにも動揺しているのか。対するエルザは、再会をひとしきり喜んだあとで、やや切なげに顔を歪めて聞いてきた。

「あの人は……ルディガーは元気?」

 さらにセシリアの心は揺れる。そして返答に迷った。

 エルザはどこまで知っているのか。少なくとも自分がアルノー夜警団に入団し、ルディガーの副官をしているとは思ってもいないだろう。ましてやここで自分の正体は伏せている。

 彼と昔馴染みだからとして聞いているなら「知らない」「会っていない」と答えるのも手だ。早く返事をしないと不信感を抱かせる。

 そのときジェイドが強引にセシリアの肩を抱いた。

「ふたりが知り合いだったとは驚きました。積もる話もあるでしょうが、先に診察にしませんか?」

「そうよ、エルザ。まずは部屋に行きましょう」

 テレサが苦笑して促す。

「ごめんなさい。彼女、古い知り合いの昔馴染みというか、妹みたいな存在でつい懐かしくなって」

 エルザは恥ずかしそうに答え、客人たちの相手をドリスに託した。さすがに女性の部屋に大勢に押しかけるのも無礼だと判断し、診察はいつも通りテレサひとりが行う。

 客間に案内されたジェイドとセシリアは隣同士にテーブルにつく。その真向かいにドリスは着席した。ややあって使用人からお茶が出され、いい香りが部屋に立ち込める。
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