剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「だって私、聞いたの。お姉ちゃんには幼い頃からの婚約者がいたのに、彼は自分のせいで兄を奪ったからって責任を感じてその妹につきっきりだって。さっき言ってたけど、妹ってあなたのことなんでしょ!?」

 後頭部を強く殴られたと錯覚しそうな衝撃だった。心臓が激しく収縮し、セシリアはなにも答えられない。ドリスは栓が抜け、水が勢いよく流れ出るかのごとく感情を吐き出す。

「婚約者より妹ばかり優先して……お姉ちゃんも仕方がないって思っていたけれど、やっぱりつらかったんだと思う。別のところからも縁談話があってそちらを選んだものの結局うまくいかなくて、体まで壊しちゃって」

「だとしても、婚約を解消したのはふたりが選んだ道だ。君がこいつを責めるのは筋違いだろ」

 今まで黙っていたジェイドがドリスの暴走を止めるべく低く鋭い声で言い放った。おかげでドリスが一度、押し黙る。そして、ぐっとうつむいてなにかを押し込めた。

「……まだお姉ちゃんは彼のことが忘れられないのよ、きっと」

 抑えきれずに漏れた言葉はセシリアの胸に深く刺さった、しばし重い沈黙が流れていたところで、エルザの診察を終えたテレサが階下に下りてきた。

「皆さん、お待たせ。……って、あら? どうしたの?」

 微妙な雰囲気を察したテレサが尋ねる。答えたのはドリスだ。

「いえ、なにも……先生もよかったらお茶を召し上がってください。ハーブティーなんですが」

 無理矢理話題を切り替え、ドリスは使用人に指示した。そのタイミングでジェイドが話を振る。
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