剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「エルザの病状は重いんですか?」

 テレサは頬に手を添え悩む素振りを見せる。彼女の前にカップが置かれ、小さく使用人にお礼を告げてから答えた。

「症状自体はそこまで重くないわ。微熱がずっと続いているの。原因を色々な方面から探っているんだけど、おそらく精神的なものが大きいんじゃないかと踏んでいるわ」

「お姉ちゃん、ずっと大変だったから」

 テレサに同意してドリスが語り始めた。

 エルザはルディガーと婚約を解消した後、先方からの強い要望もあり母方の遠縁の彼の元へと嫁いだ。王都から離れた遠い町に不安はあったが、望まれた結婚だと期待を膨らませていた。

 実際は、まだまだ封建的な土地柄で女性は自己主張がほとんどできず、夫や家長の言うことが絶対という環境はエルザにとって思った以上のストレスだった。

 子どもになかなか恵まれないプレッシャーも加わり、エルザの精神と共に体も蝕まれていく。

 床に伏せがちになった彼女はますます疎まれ、夫婦仲は冷めていく一方だった。そういった状況で、離縁がつきつけられたとき、エルザはショックよりも安堵の方が大きかった。

 ところが外聞を気にする実家は彼女の離縁をよく思わず、結果的に叔父の家で世話になることになった。幼い頃から知っている叔父夫婦の優しさはもちろん、一人娘で兄弟のいないドリスの強い希望もある。

 話を聞いて、セシリアは自分の感情が波打っていると気づく。今は情報を正確に頭に刻み込むだけだ。対象はエルザではなくドリスなわけだが。
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