剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「そういえばドリス。君が今流行りのアスモデウスに接触したなんて馬鹿げた話を聞いたんだが?」

 一区切りついたタイミングで、唐突にジェイドが切り込んだ。あまりの単刀直入ぶりにセシリアは思わず彼を二度見する。

 ドリスの反応を窺うと、あからさまに不快そうな面持ちだ。図星を指されたというより内容に嫌悪感を示している。

「なにそれ。どこでそんな話が?」

「まぁ、あくまでも噂だ。君が綺麗になったから妬んだ誰かが言い出したんじゃないか?」

 調子を合わせたジェイドにドリスの顔ばせに変化が見られる。

「綺麗になったって思う?」

 声には期待が入り混じっている。それを察せられないほどジェイドも鈍くはない。

「ああ。君とは初対面だから、なったというより綺麗だと思うよ」

 さらっとそういうことを言えてしまうのは上官と似ているとセシリアは思った。すっかり機嫌をよくしたドリスは頬と口元を緩め、自然と笑顔になる。

「嬉しい。でもアスモデウスなんて嘘よ。そんなものいないわ。それに私、男の人苦手だし、会いたいとも思わない。ちゃんと努力したからよ」

「その努力した方法を是非教えてほしいね」

 ジェイドのなにげない質問に、一瞬だけドリスは顔を強張らせた。あからさまな反応だ。しばし目を泳がせる。
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