剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「先生、今日は無理を言ってすみませんでした。あまりお役にも立てずに申し訳ありません」

 道中でジェイドがテレサに声をかけると、行きと同じで先を歩いていたテレサは振り返って笑顔を向けた。

「いーえ。それにしてもセシリアがエルザと知り合いだったなんて驚いたわ。彼女、あまり外出できないから、また話し相手になってあげて。ドリスもいるし」

「……はい」

 それからエルザの症状について、ジェイドとテレサがあれこれ話すのをセシリアは遠巻きに聞いていた。

 テレサの自宅に戻ると、彼女は部屋に入らず倉庫へと足を向ける。

「ワインの発酵具合でも見に行くわ。少し中身を揺すらないと」

「おひとりで持てますか?」

「大丈夫よ。雑菌が入らないように中身をいっぱい入れているけれど、一つひとつは小さい樽を使っているから」

 心配無用と言わんばかりのテレサにジェイドも強くは申し出なかった。彼女が年齢の割に逞しいのをジェイドもよく知っている。

 お馴染みの荷車に薬草などをいっぱいに詰めて引いている姿を何度も目にした。

 セシリアもテレサにお礼を告げ、また顔を出す旨を告げる。セシリアとジェイドだけになり、ややあってからジェイドが口火を切った。

「気にするなよ」

 なんのことか、と考えを巡らせるほどでもなかった。あえて言わないのはジェイドなりの優しさなのだろう。

「詳しい事情は知らないが、どんな理由であれ決めたのは本人たちなんだ。おまえが自分を責める必要はない」

 気にしていませんよ、と返すつもりだったのに、あまりにもはっきりとした言い分で続けられ、セシリアは苦笑してしまった。
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