剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
「……ありがとうございます」

 素直にお礼を告げる。やはりジェイドはどことなく兄に似ている気がした。

「で、ドリスの件、お前はどう見た?」

 本題に入り、セシリアは頭を切り替える。

「やはり、なにかあると思います。もしも食事制限や運動など一般的なものでしたら、あそこまで動揺したり隠したりはしないでしょう」

「だな。やはりなんらかの特別なことをしているんだろう。綺麗になったというのも世辞にはとらなかった。本人に自覚があるんだ。それだけのなにかをしているという話になる」

「あと、ひとつ気になりました。『先生には簡単なことよ』というのはどういう意味なんでしょうか」

 ジェイドがさりげなく美容法について尋ねたときに言いこぼしたドリスの台詞だ。ジェイドはおもむろにこんからがる思考を整理するかのごとく頭を掻く。

「あれな。俺も鎌をかけたつもりだったんだが……なんの話だ?」

 まるで見当がつかない。もう少しドリスとは距離を縮める必要があるのかもしれない。とはいえ、ドリスはアスモデウスの存在は全否定していた。

 ひとまず今日は解散の流れとなる。セシリアとしても雨が降りだす前に城に戻りたい。馬を預けている夜警団の屯所近くまでジェイドはセシリアを送っていく。

「今日はわざわざ悪かったな」

「あまりお役に立てずに申し訳ありません」

 セシリアの謝罪にジェイドは軽く首を傾げて否定した。
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