俺の誕生日がいつかって?……ああ、そう言えば今日だった
「お疲れさーん」
雪のちらつく冬の夕方。辺りも暗くなり部活終了の時刻になってしまった。着替えを済ませて家路につこうと部室を出れば少し間の抜けた声が聞こえてくる。声が聞こえた方へ顔を向けると寒そうにマフラーへ顔をうずめている高橋先輩がひらひらと手を振っていた。
高橋先輩は俺の所属している野球部のマネージャー。裏表がなくサバサバしているので話しやすくて頼りになると野球部の部員たちからの評判もいい。そんな先輩はさっきまでグラウンドで顧問と話していたのか鼻の頭が少し赤くなっている。まるで赤鼻のトナカイみたいだ。
「お疲れさまです」
「今から帰りでしょ? 途中まで一緒に帰ろうよ」
やーっと先生の長い話も終わったし! とイタズラっぽく言った先輩はなんだか俺より幼く見える。実際は俺より1歳年上なんだけどね。
高橋先輩は俺と家の方向が同じということもあって時々こうやって一緒に帰ろうと誘ってくれることがある。最初のうちは恥ずかしくて断っていたんだけれど、それでも何度か誘われて……申し訳なさと俺が根負けしたような形で承諾し、たまに一緒に帰っている。最初は野球部の先輩にからかわれたりもしたけれど最近では見慣れたのか、はたまた飽きて興味がなくなったのか、誰も話題にはしなくなった。ああ、またか。といったような感じだ。
「いやーそれにしても寒いね。辻くん寒くない? 手袋やマフラーしてないじゃん」
「意外と平気ですよ」
「やだ、若いわね」
「年は1つしか違わないですよね?」
「この間、誕生日きたから今は私の方が2つ年上だもんねー!」
あっかんべーと小さな子どもみたいに舌を出した高橋先輩に思わず笑いがこぼれる。全然年上らしくないですね、なんて言ったら先輩も可笑しそうに笑っていた。部活のときはキリキリ動いていて第一印象は出来る先輩! って思っていたんだけど部活が終わった途端OFFモードになるらしく、普段は少しだらっとした感じだ。
まぁ……そのギャップもなんだかいいな、なんて思っているんだけど。要するに高橋先輩であればなんでもいいんだよね。俺って単純。
「ちなみに辻くんは誕生日いつなの?」
「俺の誕生日ですか? あぁ、そう言えば今日ですね」
「え、本当? 初耳なんですが」
「そりゃあ、初めて言いましたから」
「ちょっと! いきなりすぎて何もプレゼント用意してないよ!」
俺の誕生日が今日だと知った先輩。マジかー! なんて言いながらあたふたとポケットをあさっている。けれど何も見つからなかったらしくショボーンと肩を落としてしまった。事前に教えておけば何かくれたのかな?そう思うと勿体ないことしたかな。高橋先輩からのプレゼントちょっと欲しかった。何くれたんだろ?
別にプレゼントを貰おうなんて思ってもいないと告げるが先輩的には何故だかそうもいかないらしい。私の威厳がーとか、可愛い後輩のためにーとか、何か言いながら今度はカバンをあさり始めた。
「やばい。本当に何もない。飴の1つも出てこないだなんて」
「そんな気を使ってもらわなくて大丈夫ですから」
「んー……あ、そうだ! プレゼントはわ、た、し! とかどうかな!?」
「――え」
「なーんてね! うそうそ! 先輩がそこのコンビニでお菓子でも買ってあげようじゃないか!」
そう言って足早にコンビニに向かっていく高橋先輩の腕をがしっと掴む。何事かとこちらを振り向いた先輩の唇にそっと自分の唇を重ね、ちゅっというリップ音とともに唇をすぐ離した。少し名残惜しい気がしなくもない。
恥ずかしさから目を閉じてしまったけど開けておけばよかったかもなんて少し後悔。どんな顔していたのか見ればよかったかな。あぁでもそれはそれでなんか怖いな。嫌な顔されてたらとてもじゃないけど立ち直れないし。やっぱり閉じといてよかったかも。
「え? あ、え? 辻くん?」
「誕生日プレゼントありがとうございます。しっかり頂きました」
さも何もなかったかのように冷静な態度を装って少し意地悪く笑ってみる。本当はめちゃくちゃドキドキしているけど。心臓破裂しそうだけど。そんなのバレたら恥ずかしいじゃん。
事情がのみこめない高橋先輩はきょろきょろと辺りを見渡したり、高速で瞬きしたり、随分と挙動不審だ。街灯の光で見える先輩の顔がうっすらと赤いような気がするのは寒さのせいなのか、それとも俺のせいなのか。はたまた両方か。
嫌われたかも、なんて少しネガティブ思考になりかけていると……
「ぷぷぷれいぼーいだね!」
「プレイボーイ……あはは!」
「何!? 何で笑うの!?」
「いやぁ……やっぱ高橋先輩のこと好きだなって思いまして」
「好き? ……私のことが好き!?」
「順番おかしくなっちゃいましたね。すみません」
「そ、それってもしかして……」
「告白と思ってもらってかまいませんよ?」
俺がそう言うとボフンとでも音が出そうなくらい一気に顔が赤くなった高橋先輩。耳まで真っ赤になって猿みたい。と思ったけどそこは心にしまっておこう。さすがに怒られそうだ。それに猿はさすがにないよな、リンゴに訂正しておこう。
こほんと咳払いが聞こえた。高橋先輩の方を見ると口を少し尖らせながら指をもじもじさせている。
「わ、わたしで良ければ付き合ってもあげてもいいよ」
「コンビニまで付き合うとかそういうオチじゃないですよね?」
「違うし! 人が真面目に話しているのに!」
「すいません。冗談ですから怒らないでくださいよ」
「出来の悪い後輩だからね! 私がついててあげないとダメかと思って!」
「ダメです。先輩がいないと俺ダメです。だからずっと俺についててくださいね」
「お、おうともよ」
もう一度キスをした。今度は長い長いキスを。
雪のちらつく冬の夕方。辺りも暗くなり部活終了の時刻になってしまった。着替えを済ませて家路につこうと部室を出れば少し間の抜けた声が聞こえてくる。声が聞こえた方へ顔を向けると寒そうにマフラーへ顔をうずめている高橋先輩がひらひらと手を振っていた。
高橋先輩は俺の所属している野球部のマネージャー。裏表がなくサバサバしているので話しやすくて頼りになると野球部の部員たちからの評判もいい。そんな先輩はさっきまでグラウンドで顧問と話していたのか鼻の頭が少し赤くなっている。まるで赤鼻のトナカイみたいだ。
「お疲れさまです」
「今から帰りでしょ? 途中まで一緒に帰ろうよ」
やーっと先生の長い話も終わったし! とイタズラっぽく言った先輩はなんだか俺より幼く見える。実際は俺より1歳年上なんだけどね。
高橋先輩は俺と家の方向が同じということもあって時々こうやって一緒に帰ろうと誘ってくれることがある。最初のうちは恥ずかしくて断っていたんだけれど、それでも何度か誘われて……申し訳なさと俺が根負けしたような形で承諾し、たまに一緒に帰っている。最初は野球部の先輩にからかわれたりもしたけれど最近では見慣れたのか、はたまた飽きて興味がなくなったのか、誰も話題にはしなくなった。ああ、またか。といったような感じだ。
「いやーそれにしても寒いね。辻くん寒くない? 手袋やマフラーしてないじゃん」
「意外と平気ですよ」
「やだ、若いわね」
「年は1つしか違わないですよね?」
「この間、誕生日きたから今は私の方が2つ年上だもんねー!」
あっかんべーと小さな子どもみたいに舌を出した高橋先輩に思わず笑いがこぼれる。全然年上らしくないですね、なんて言ったら先輩も可笑しそうに笑っていた。部活のときはキリキリ動いていて第一印象は出来る先輩! って思っていたんだけど部活が終わった途端OFFモードになるらしく、普段は少しだらっとした感じだ。
まぁ……そのギャップもなんだかいいな、なんて思っているんだけど。要するに高橋先輩であればなんでもいいんだよね。俺って単純。
「ちなみに辻くんは誕生日いつなの?」
「俺の誕生日ですか? あぁ、そう言えば今日ですね」
「え、本当? 初耳なんですが」
「そりゃあ、初めて言いましたから」
「ちょっと! いきなりすぎて何もプレゼント用意してないよ!」
俺の誕生日が今日だと知った先輩。マジかー! なんて言いながらあたふたとポケットをあさっている。けれど何も見つからなかったらしくショボーンと肩を落としてしまった。事前に教えておけば何かくれたのかな?そう思うと勿体ないことしたかな。高橋先輩からのプレゼントちょっと欲しかった。何くれたんだろ?
別にプレゼントを貰おうなんて思ってもいないと告げるが先輩的には何故だかそうもいかないらしい。私の威厳がーとか、可愛い後輩のためにーとか、何か言いながら今度はカバンをあさり始めた。
「やばい。本当に何もない。飴の1つも出てこないだなんて」
「そんな気を使ってもらわなくて大丈夫ですから」
「んー……あ、そうだ! プレゼントはわ、た、し! とかどうかな!?」
「――え」
「なーんてね! うそうそ! 先輩がそこのコンビニでお菓子でも買ってあげようじゃないか!」
そう言って足早にコンビニに向かっていく高橋先輩の腕をがしっと掴む。何事かとこちらを振り向いた先輩の唇にそっと自分の唇を重ね、ちゅっというリップ音とともに唇をすぐ離した。少し名残惜しい気がしなくもない。
恥ずかしさから目を閉じてしまったけど開けておけばよかったかもなんて少し後悔。どんな顔していたのか見ればよかったかな。あぁでもそれはそれでなんか怖いな。嫌な顔されてたらとてもじゃないけど立ち直れないし。やっぱり閉じといてよかったかも。
「え? あ、え? 辻くん?」
「誕生日プレゼントありがとうございます。しっかり頂きました」
さも何もなかったかのように冷静な態度を装って少し意地悪く笑ってみる。本当はめちゃくちゃドキドキしているけど。心臓破裂しそうだけど。そんなのバレたら恥ずかしいじゃん。
事情がのみこめない高橋先輩はきょろきょろと辺りを見渡したり、高速で瞬きしたり、随分と挙動不審だ。街灯の光で見える先輩の顔がうっすらと赤いような気がするのは寒さのせいなのか、それとも俺のせいなのか。はたまた両方か。
嫌われたかも、なんて少しネガティブ思考になりかけていると……
「ぷぷぷれいぼーいだね!」
「プレイボーイ……あはは!」
「何!? 何で笑うの!?」
「いやぁ……やっぱ高橋先輩のこと好きだなって思いまして」
「好き? ……私のことが好き!?」
「順番おかしくなっちゃいましたね。すみません」
「そ、それってもしかして……」
「告白と思ってもらってかまいませんよ?」
俺がそう言うとボフンとでも音が出そうなくらい一気に顔が赤くなった高橋先輩。耳まで真っ赤になって猿みたい。と思ったけどそこは心にしまっておこう。さすがに怒られそうだ。それに猿はさすがにないよな、リンゴに訂正しておこう。
こほんと咳払いが聞こえた。高橋先輩の方を見ると口を少し尖らせながら指をもじもじさせている。
「わ、わたしで良ければ付き合ってもあげてもいいよ」
「コンビニまで付き合うとかそういうオチじゃないですよね?」
「違うし! 人が真面目に話しているのに!」
「すいません。冗談ですから怒らないでくださいよ」
「出来の悪い後輩だからね! 私がついててあげないとダメかと思って!」
「ダメです。先輩がいないと俺ダメです。だからずっと俺についててくださいね」
「お、おうともよ」
もう一度キスをした。今度は長い長いキスを。