地雷


「良かったね。ボランティア休暇が認められたよ」
 前原支店長が頭取と相談し、半年間程度ならばボランティア休暇を認めても差し支えないとの結論を、菊池が亜里沙に説明した。
 亜里沙は涙を流しながら言った。
「ありがとうございます。では、また来年二月から働かせて頂きます」
 菊池は笑顔で、一枚の書類を手渡した。それは、ボランティア休暇申請書だった。その隅のほうに菊池が鉛筆でメモを書いていた。
(今日、俺のアパートに来るように。それからこのメモを見たら消すこと)
 亜里沙は、早速申請書に必要事項を記入した。その後、菊池の書いたメモを消しゴムで消し、菊池の許に持っていった。
 菊池は、笑顔で自分の印鑑を押した。亜里沙には目で合図をする。
 その後、その書類を小林課長に手渡した。
 課長席で小林が小声で言った。
「いやあ、菊池。お前の支店長への剣幕はすさまじいものだったな。やっぱりお前、この前から噂になっている山岸君との私的交際は本当だったんだな」
 菊池は沈黙した。その姿を見た小林が言った。
「お前、どうやって彼女を落としたんだ。俺も彼女にアタックしたが一向に見向きもされなかったぞ」
 菊池は辛うじて言った。
「どうと言われましても。私も今でも夢のようです」
 小林は大きく頷いた。
「やはりそうか。浦野洋子さんがこの前からしきりにあちこちで言いふらしている。何でもお前と山岸君が高崎駅のホームに二人でいたところを見たと言ってね」
 菊池は、内心の危惧を小林にぶつけてみた。
「やはり同じ課内でそういったことになると、私か彼女のどちらかが異動ということになるんでしょうか?」
 小林はニヤリと笑い答えた。
「そうなるだろうな。でも今は年度途中だから今すぐではないと思うがね。来年の四月にどちらかが他の支店に移るんだろうな。あるいは、彼女が半年不在だから、彼女が復職したときに他の支店に移ってもらうことになるのかな」
 菊池は、小林の皮肉混じりの言葉に沈黙した。そのまま課長席を立ち去ろうとすると、小林が菊池を呼び止めて小声で言った。
「別に他の支店に行ったっていいじゃあないか。連絡ならいつでも取れるんだろう。俺はお前が羨ましいよ」
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