地雷


 菊池が、プノンペン国際空港に降り立った途端、熱波が全身を覆い尽くした。暑い。とにかく暑い。
 プノンペン国際空港は、菊池が想像していたよりも立派な施設だった。
 菊池は、冷房の効いている待合室に入って、腰を下ろした。周囲には意味不明な言語で話す団体が五人ほどいた。これが恐らくクメール語だろう。
 菊池は、暑いのと言葉が分からないため、亜里沙が迎えに来るまで待合室にいることにした。
 いつの間にか、団体客はどこかに行ったので、菊池一人になった。
 待つこと一時間半、ようやく亜里沙が遠くから走ってくるのに気がついた。
 亜里沙は、勢いよく待合室のドアを開けた。そのまま、立ち上がった菊池に飛びついてきた。
 二人は抱き合った。その状態のまま菊池が言った。
「会いたかったよ」
「わたしも」
 菊池は、亜里沙の口を吸った。亜里沙の肩が小刻みに震えている。
 長い接吻が終わった後、菊池は亜里沙の髪を撫でながら言った。
「だいぶやつれたようだけど、作業はきついかい?」
 亜里沙は、目を潤わせながら答えた。
「ええ、人に聞いていたよりもきついわ。明日けんちゃんも作業したら分かると思うけど」
 菊池は言った。
「俺は、ここでもう一時間半もいるんだ。外は暑いし言葉も通じないからね。これから、プノンペンロイヤルホテルまで案内してくれないか? それから、腹も減った。どこかで食事をしよう」
 亜里沙は頷き、菊池の手を握ったまま待合室を出た。
 もうすぐ日没という時刻ではあるが、依然として暑かった。
 亜里沙は、大通りまで菊池を連れていくと、スマートフォンを取り出してどこかに電話していた。
 何やら話しているが、クメール語なので菊池には理解できなかった。
 電話を切ると、亜里沙は菊池に向き直り言った。
「今タクシーを呼んだわ。カンボジアでは流しのタクシーはほとんど走っていないの。だから電話で呼ぶのよ」
 五分ほどして、一台の中型車が二人の前に停まった。
 亜里沙、菊池の順で車内に入った。冷房が心地よい。
 亜里沙は、運転手に何事かを告げている。
 やがて車が走り出した。
 亜里沙は、不安がっている菊池に向かって言った。
「これからホテルまで直行するよ。ホテルで夕食を食べようね」
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