地雷


「こりゃあ、大変だ。水を飲まなきゃあ」
 菊池はそう言い残し、水を飲みに行った。  
 菊池は、翌日の朝九時に亜里沙とともに、地雷除去作業を行っていた。
 今日も四十度を超しており、作業員は頻繁に水を飲みながら作業をしていた。
 それでも汗が滴り落ちる。その上、誤って地雷を踏まないように気をつけながら、ゆっくりと取り除いていった。
 辺りは草原であり、遠くに山が見えていた。
 亜里沙はと見ると、他の作業員と共に、水を飲んでいた。
 水飲み場で、若い男性が菊池に訊いてきた。
「大変でしょう。連日これですから参ってしまいますよ」
 菊池がその若い男性に訊いた。
「あなたも、NGOピースワールドから派遣されてきたんですか?」
 男性は頷いた。連日の炎天下の作業のため、日焼けしている。
「そうです。でも僕はもうすぐ帰ります。このような過酷な環境ですからね。そう長期に渡って派遣されないようになっています」
「するとあなたは、もうこちらに来て半年くらい経つんですか?」
「そうです。もう半年になります。来週の月曜日に日本に帰ります」
 菊池が周囲を見渡すと、作業員が五十人くらい、黙々と作業を行っていた。
 若い男性が注意した。
「地雷を間違って踏むと大変なことになりますからね。気をつけて下さい」
「ありがとう」
 菊池は、元の場所に戻った。いや、これは本当に大変な作業だ。自分は来週末に日本に帰るが、亜里沙は来年の一月末までこの作業をするのか――。
 菊池が亜里沙を探すと、右手の約十メートル先で作業をしていた。顔は苦渋に満ちている。
 これは、早く彼女を帰らせたほうがいい。この作業の重要性は分かるが、半年までは持たないだろう。見ると作業員は亜里沙以外、若い屈強な男性だった。
 作業を終了する時刻が迫ったとき、菊池は亜里沙に向かって言った。
「なあ亜里沙。この作業の重要性はよく分かる。だた、亜里沙が半年も務めることは不可能に思えてきた。無理しないで俺と一緒に帰ろう」
 亜里沙が、地雷から手を放し何事か言おうとしたときだった。
 大きな爆発音と突風が、菊池を襲った。菊池は地面に叩きつけられた。
 土煙が上がっている。
 周囲の作業員の一人が大声で言った。
「地雷が爆発した。皆大丈夫か?」
 菊池はその声で我に返り周囲を見渡すと、全身血まみれで蹲り左足が取れている亜里沙が目に入った。
< 20 / 29 >

この作品をシェア

pagetop