地雷


 亜里沙は意外な心境だった。自分の週末の活動を話しても、菊池はひくどころか応援するという。しかもそれは、社会貢献であり大切なことだと言ってくれた。さらに、悩み事があったら相談するようにとのことだった。
 また、カンボジアに派遣された際には、銀行を辞めようと思っていたのだが、ボランティア休暇の手続きまでしてくれるという。
 これまで出会ったことのないタイプの異性だった。
 そこで亜里沙は訊いてみた。
「係長はまだ独身ですけど、これまでにお付き合いをした女性はいたんですか?」
 菊池は、苦笑しながら答えた。
「いや。これまで全然いないよ。女性にどう接すればいいか分からないからね」
「でも係長のほどの男前だったら、言い寄ってくる女性はいなかったんですか?」
「言い寄ってくる女性は、何となくいたような気がする。だけど、そんな場合にどうすればいいか分からず、結局は機会を逸したというわけさ。俺は、男性と女性は別の生き物だと思っているからね」
 亜里沙は合点がいった。今日、この居酒屋に来るまでと来てからしばらくの間、会話がぎこちなかった。菊池係長としては、どう対処したらいいか手探りで考えていたのだろう。
 亜里沙は、そんな菊池に恋心を抱き始めた。
 菊池は、ビールを止めハイボールを飲んでいた。ハイボールを半分くらい飲んだ後、菊池は訊いた。
「山岸さんのNGOの活動って、毎週なのかい?」
 亜里沙は即答した。
「基本的には毎週です。本部には事務局の人が毎日詰めています。我々ボランティアは、都合がついた日に駆け付けるんです」
「すると、事前にこの日が都合が悪いと言っておけば、休めるということだね?」
「休めるというと語弊がありますが、参加しなくても大丈夫です」
 菊池は、野菜炒めを一口食べてから言った。
「そうすればどうだろう。さっきも言ったが、もし山岸さんが良かったら、一緒に野球観戦にでも行こうじゃないか。チケットは俺が取るから」
 亜里沙は、自分でも顔が紅潮していくのを感じていた。
「ぜひお願いします」
 菊池は、微笑んで呟いた。
「よかった。観戦のときにはいつも俺一人なんだよ。野球人気が高かったころには、同行してくれる友人もいたんだがね。最近では、皆群馬からわざわざ東京ドームまで行こうという気になれないそうだ。山岸さんに一緒に行ってもらえれば、どんなに楽しいことか」
「でも、さっきも言ったとおり、ルールしか分かりませんよ」
「大丈夫。ルールさえ分かれば、後は俺が教えるよ」
 結局、この日から二人の交際が始まった。
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