地雷



   東京ドームと東京競馬場

     1

 菊池と亜里沙は、二週間後の土曜日、高崎駅の上越新幹線のホームに立っていた。
 菊池は白のワイシャツに紺のズホン、亜里沙は黒のライダージャケットにパンツスカートといういで立ちであった。
 今日は東京ドームで、夜六時から東京ベアーズ×平塚ドンタコスの公式戦が予定されており、菊池が内野S指定席を二枚押さえていた。
「わたし、球場に行くの初めてよ。今からワクワクするわ」
 亜里沙は興奮ぎみに言った。
 菊池は軽く頷いた。
「実際に中に入ってみると、もっと興奮するかもね。俺が初めて行ったときは、本当にビックリしたからね」
 このころには、菊池は亜里沙と呼び、亜里沙は「けんちゃん」と呼ぶようになっていた。
 もちろん銀行内では、山岸さん、係長と呼び合うが、プライベートで会うときにはタメ口だった。
 菊池はしたり顔で言った。
「野球は先月末に始まったばかりだからまだ何とも言えないが、東京ベアーズは、二位船橋オリオンズに二ゲーム差をつけて首位に立っている。何といっても、今シーズンから就任した新監督の村松さんの采配がいいからね」
 亜里沙は早速質問した。
「二ゲーム差ってどういうこと?」
 ちょうどそのとき新幹線が入線してきた。
 二人は七号車の指定席に座った。
 新幹線が発車したころに、菊池が言った。
「二ゲーム差というのは、東京ベアーズが負けて船橋オリオンズが勝つと一ゲーム差に縮まる。もう一回同様のことが起こると同率で首位に並ぶという意味だよ」
 亜里沙は、頷いてさらに訊いた。
「とうことは、両チームが共に勝ったり、反対に負けたりした場合には変動はしないということね」
 菊池は大きく頷いた。
 そうこう話すうちに、新幹線はあっという間に、終点東京駅に到着した。
 二人はその後中央線快速に乗り、お茶の水で総武緩行線に乗り換え、水道橋駅に到着した。
 水道橋駅西口は人でごった返していた。野球観戦に行く者や、近くにある場外馬券場から帰ってくる者が入り乱れていた。
 左手に場外馬券場を見ながら進むと、東京ドームが見えてきた。
「あれ。テレビで見たことあるよ」
 亜里沙が、目をらんらんと輝かして言った。
「そうだろう。野球以外でもコンサートやイベントなどで使っているから、テレビに映る機会は多いよ」
「わたしたち、今日テレビに映るかしら」
< 6 / 29 >

この作品をシェア

pagetop