地雷


 試合は五回裏が終わった。これからグランド整備である。
 菊池と亜里沙は、生ビールと弁当を買い、食べ終わっていた。
「この弁当おいしいね」
 亜里沙は興奮していた。
 菊池は大きく頷いた。
「ここは、弁当の種類が豊富でうまい。ただ値が張るけどね」
 菊池は、近くを通りかかった生ビールの売り子に生ビール二つ頼んだ。
 代金を渡し一つを亜里沙に渡した。
 場内アナウンスが六回表の開始を告げた。
「さて、今日はベアーズの平田投手の調子がいいな。これまで打たれたヒットは三本だけだ」
 試合は、三回裏に東京ベアーズが三連打で二点を取り、二対〇で東京ベアーズが勝っていた。
 亜里沙は菊池に訊いた。
「平田って投手はいい投手なの?」
 菊池は頷いた。
「ベアーズの柱の投手だよ。彼が投げると後のピッチャーを休ませることができる」
「後のピッチャーって?」
「昔の野球は、ピッチャーは投げる試合は最後まで投げていた。しかし今は、先発ピッチャーが六回くらいまで投げると、中継ぎ、抑えのピッチャーに交代することが多いんだよ。どこのチームも三人くらい勝ちゲーム用の中継ぎ陣を待機させているんだ」
「なるほど。じゃあ、平田投手は珍しいんだね」
「そうだ。今のストレート見たろ。キレがあってあれではバッターが打っても詰まってしまうよ」
「キレって何。それと詰まるって?」
 菊池は、ビールを一口飲んで言った。
「キレは球の回転数のことを言うんだ。キレがいいとは、球の回転数が多くて、バッターの手元で伸びるんだ。そのため、バッターが打ってもバッドの芯に当たらず、平凡なゴロやフライになってしまうんだよ。その状態が詰まるということさ」
 亜里沙は、外野スタンドを指さして訊いた。
「あそこら辺に座っている人は、トランペットとか吹いていいの?」
「あれは、球団の私設応援団だよ。特別に許可をもらっているんだ。選手ごとに応援歌が違うんだよ」
 試合は、八回表、平塚ドンタコスが犠牲フライで一点を取り、二対一となった。
 東京ベアーズは、九回表から平田投手から抑えの上野投手に交代し、そのまま勝利した。
「いやあ、楽しかったわ」
 亜里沙は、満面の笑みを浮かべていた。
「亜里沙が楽しんでくれてよかったよ。また来ようね」
「もちろん。けんちゃんの解説も分かりやすかったよ」
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