地雷


 翌週の月曜日、関越銀行の昼休みに亜里沙が弁当を食べていると、今年入行した高橋ゆかりが笑顔で近づいてきた。
 高橋ゆかりは、髪を短く刈り、目がぱっとりとしており鼻が高い。
 大学時代から交際している男性と休日などは遊びに出かけている。
「ここで食べてもいいですか?」
 亜里沙は軽く頷いた。
「ゆかりちゃんもお弁当?」
「いいえ、私一人暮らしだから弁当作るのも面倒なので、コンビニのおにぎりです」
 ゆかりは一直線に亜里沙を見据えて訊いた。
「ところで、山岸さん。最近何かいいことでもありました?」
 亜里沙は首を横に振る。
「別に何もないけど。何で?」
「だって、山岸さん、最近おしゃれに一層磨きがかかっているし、笑顔が絶えないし。あっ、もしかして彼氏でもできました?」
 ゆかりを見ると、こちらを見て微笑んでいる。
「そんなんじゃないよ。だって、銀行とNGOの事務所に行ったり来たりの生活だよ」
 ゆかりは、目を輝かせ言った。
「でも、山岸さんのお弁当、菊池係長のお弁当と一緒ですよ」
 亜里沙は言葉に窮した。ペットボトルの麦茶を一口飲む。顔が紅潮してくるのが自分でも分かる。
「山岸さん。分かりやすいなあ。そうですよね。係長が山岸さんを見る視線がこの前から違いますからね」
 そのとき、亜里沙の一年先輩である浦野洋子が近づいてきた。
 浦野洋子は顔が大きく角ばっており、男性行員から見向きもされなかった。
「ここで食べてもいい?」
 亜里沙とゆかりは揃って頷いた。
 浦野洋子は、出前のたぬきそばと食べていた。
 ゆかりは洋子に訊いた。
「浦野さん。最近、菊池係長と山岸さん、デキていると思いますか?」
 洋子は即答した。
「だって、一昨日高崎駅で一緒に歩いているところを、たまたまわたしが見かけたから間違いないわ」
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