クリスマスなんてなくなればいいのに。
もしかしたら、わたるがここを見つけるかもしれない。
絶対、追いかけてくるはずだから。
そうしたら、思い出と呼ぶには苦いけれど忘れられないこの場所を探さないわけがない。
段ボールを押しのけて、死角になりそうな位置に座り込む。
膝を抱えて、腕に顔を埋める。
袖がじわりと濡れていくのがわかった。
最低、とわたるに言えるような立場なのかな、わたしは。
イエスともノーとも言わずに、のらりくらりと上手く躱してきたつもりだったけれど、それさえ、わたるが逃がしてくれていただけかもしれない。
いくつも積み重なった、わたしの知っているわたるのこと。
ひとつひとつ、声に出して並べてみたところで、わたるの考えていることなんてちっともわからない。
とめどなく、溢れて止まらなくて。
涙よりも先に、わたるについて知っていることの方が尽きた。
いつまで待っても開かないドア、何度か鳴り響いたチャイム。
一限の終わりを知らせる音が聞こえるまで、ずっとひとり、蹲っていた。
目元の腫れはどうしようもないと諦めて教室に戻ると、クラスメイトがこぞって集まる。
みんなが口々に発するのは謝罪ばかりで、わたるとのことは誰も何も言わない。
これがみんなの気遣いによるものではなくて、わたるが根回ししたことくらい、わたしにもわかる。
休み時間も昼休みも、わたるは教室に来なかった。
けれど、放課後はわからない。
つかまって、駅までの道のりを一緒に歩くなんてできない。
ひどい言葉を投げてしまうかもしれない。
そんな心配よりも、わたるの本心を知るのがこわい。
好きって気持ちだけがそこにあるのではない気がして。
誰よりも早く帰ることよりも、誰よりも遅く帰ることを選んだ。
空き教室で暗くなるまで過ごし、完全下校の時間ギリギリになって学校を出る。
駅までの道のどこかにわたるがいたらどうしよう。
まるで、いてほしいとでも言うような不安の皮を被った期待が嫌で仕方なくて、マフラーを外して結んでいた髪も解いた。
この程度でわたしだとわからなくなるような人でないことくらい、もうずっと知っているくせに。