クリスマスなんてなくなればいいのに。


「麻耶さん」


「やだ。聞かない」


「……いつもの、言わないから。聞いてよ」


「……言ってよ」


やだな、もう。

面倒くさいな、わたし。

わたる、いま、どんな顔してるんだろう。


こんな顔で振り向けない。

なんで泣いてるんですか?って言われたら、答えられない。


「好きです」


「嘘吐き」


「これは、本当。……もう、言いますけど。朝のあれはおれの願望。毎日してる妄想なんです。引きました?」


最後は投げやりに、たぶん、もうどうにでもなれって気持ちで言ったんだと思う。


何も言わずに、一歩わたるから遠ざかろうと試みる。

この距離で、わたるがわたしを逃がすわけないのに、しっかりと手を掴まれる。

惜しいな、こいつ。ここで抱きしめるくらいの度胸がないのか。


「行かないで。引いたなら、言ってください」


引いたよ。ドン引きした。

けれど、嬉しいんだ。

ねえ、どっちを伝えたらいい?


「わたし、もう卒業するんだよ」


ずっと胸に巣食っていた、一番の気掛かり。

それがいま、やっと、飛び出した。


「三月までまだ時間はあります」


「それ、なんの時間のこと言ってる? 一緒にいられる時間のこと?」


「言葉のまま受け取ってくださいよ。面倒くさいな。おれも大概だけど、麻耶さんは回りくどいんです」


面倒くさい。……面倒くさい?


「……は?」


「早く言えよ」


「ちょ……え? あんたなんか……え、だれ?」


わたるだと疑わなかったけれど、この人もしかして別人?

掴まれたのが腕でよかった。振り向ける。


「わたるじゃん」


「何言ってるんですか」


口調もいつもと変わらない。敬語だ。

じゃあ、さっきのは、聞き間違い?


「話さないならおれが勝手に喋りますね」


自分の耳を疑って、わたると見つめ合ったまま動けないでいると、掴まれたままの手を引き寄せられる。

胸にぶつかる前に、空いた手を前に突き出してつんのめるのを阻止した。


その腕に収まるには性急過ぎる。

ホッと息をつくわたしの頭上に舌打ちが落ちた。


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