クリスマスなんてなくなればいいのに。


「……わたる?」


「はい?」


「わたし、怒ると態度変わる人ってこわくて苦手かもしれない」


「怒らせなきゃいいでしょう。麻耶さんだって機嫌悪いときの言葉遣い、ひどいですよ。おれの麻耶さん像が音を立てて崩れましたもん」


「それは……ごめん。なんか心当たりある」


「謝らなくていいです。ぜんぶ、好き」


あ、いつものわたるだ。

いつまでも、何度言っても『好き』の瞬間には少しだけ照れてる。

不意打ちを食らって、わたるの胸に置いた手から一瞬力が抜けたのを見計らって、腕が首の後ろに回されたかと思うと、強く引き寄せられた。


ぽすん、と呆気なくわたるの胸にぶつかった鼻っ柱。

力いっぱい、苦しいくらいに抱きしめられて、必死にもがく。


「大人しくして、麻耶さん」


「するわけないでしょ……!こんな、街中で……離してよ」


「お願い。だっておれ、これからフラれるかもしれないんですよ」


声のトーンが一段、低くなる。

もう、何が本当のわたるかなんてわからないけれど、不安定になったときに深呼吸をするのは、たぶん、癖なんだろう。


「それはわからない」


「否定してください」


「話を先に聞いてね」


「やだ。聞かない。絶対聞きません」


面倒くさいな、こいつ。

あ、でもこのやり取り、わたしもさっきしてた。


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