クリスマスなんてなくなればいいのに。
それから、どうしたんだっけ。
予鈴がなるまで、わたるの背中を摩っていた記憶がある。
言葉も交わさずに、抱きしめることもできずに。
あのときから、何も変わっていないわたしとわたるの距離。
付き合っているともいないとも公言していないけれど、今もわたるがわたしに会いに来るから、クラスメイト達は勘違いをしてくれている。
ありがたいような、真実を知られるのがこわいような。
永遠に暴かれることのないように祈るしかない。
まだ朝のホームルームまでは時間がある。
トイレに行っておこうと席を立とうとすると、わたるがこちらを見た。
思いっきり向こうを見て話をしていたのに、気付いてしまうんだ。
「どこ行くんですか? おれもついてっていい?」
「だめ。ついてくるならそのまま自分の教室に戻らせるよ」
ポケットに入れたハンカチを出して目の前で振ると、わたるは黒板の上にある時計を見て、ううんと唸る。
一緒に行きたいけれど、わたしが戻ってくるまで待っていた方が長く過ごせるから迷っているのだろう。
「待ってる。はやく戻ってきてくださいね」
「はいはい」
学年のちがう教室にひとり置いていくことに関しては、今更気にすることでもない。
わたるを置いて廊下に出ると、足元を走る風が全身から体温を奪っていく。
急いでトイレを済ませて教室に戻る途中、なんとなしに目にとめた三年生用の掲示板の張り紙。
卒業まであと何日、とカウントダウンを刻むその紙はもう四辺がぼろぼろになっている。
日付の部分に穴を開けてホワイトボードを埋め込んでいて、確か生徒会のメンバーが毎朝書き換えているはずだ。
デタラメな日数を書くというイタズラもたまにされている。
いつの間にか二桁になっている数字を見て、以前同じようにここで立ち止まったことを思い出す。
10月の半ばだったかな。
この数字がまだ、三桁だったころ。
『 ∞ 』と書かれていたことがあった。
たまたま生徒会のひとりが通りかかって、またか!と声を上げ、文字を消しながら、たぶん独り言のつもりで言ったんだろうけれど。
『ずっと卒業しなくていいならそりゃ嬉しいよ』
早く卒業したいという人も多い中、何を思ってそう言ったのかはわからないけれど、一言一句違えずに覚えてる。