PRISM « Contract marriage 番外編»
悠夏は、もう片方の手で…、匡の身体にしがみついた…

「…紘一さん…、離さないで…っ」

耳元に、そぅ届く声に…、精神のタガが外れそうだった…

いま、君を抱いているのは、自分だ…と、喉元まで出かかった…が、この状況をどう説明する? 傷付けるだけだ…と、匡は、細心の注意を払った…

彼女は、自分を抱いているのは…自分の夫の紘一である…と、信じている…

その心を、傷付けることは出来ない…


が…、自分を抱いているのは、夫のフリをしている恋人である…ことを気付かない…、気づかせてはならない…


匡の心が、抉られていくような…感覚がした…


「…っあ…っ! 紘一さん…、あぁ…っ!」

「悠夏…、愛しているよ…」


そぅ…、口付けをする兄を見て…、頭のどこかが凍りついていくのを感じた…

兄もやはり…、彼女を愛している…

愛情の示し方は、自分とは違っていても…


この2人の間に、入ることなど…最初から無理に等しかったのだ…



行為のあと…、疲労感から…眠ってしまっている悠夏の髪を、優しく撫で付ける紘一…

紘一は、着替え終えた匡の方に、視線を向けず…悠夏の寝顔に視線をむけたまま…

「匡、明日の夜も…来いよ…」

その言葉に、匡は、意を決し…

「あなたはそれでいいんですか? 俺が彼女を抱いても…? 悠夏さんを愛しているのに…? 俺のことを、憎んでいるのに?」

「声を抑えろ。悠夏が起きる…」

紘一は、ようやく匡の方を見…

「…愛している…確かに、そうかもしれないな…。お前との不貞を知り…、腸が煮えくり返る…とはこのことか…と、思った。
だが…、悠夏がそれを望んでいるんだ…。お前との関係を続けることを…」

「…それでも…、今日のようなことは…っ。彼女にとって、残酷です…」
《夫の目の前で、ほかの男に抱かれるなんて…っ》


「そうだな…。普通じゃないな…。
だが…、お前は来ただろ…? 悠夏がどんなに傷付こうが…、こんな騙し討ちみたいな行為を…拒絶しようとすれば…出来たはずなのに…っ」

紘一の言葉に、何も言い返せない匡は、言葉に詰まった…

「お前は、俺には逆らえない…。明日の夜も、来るんだ…」

匡は、紘一を一瞬、睨みつけ…踵を返すと、寝室を出てこうとした…

「…お前は、悠夏を一生…護るんだよ…」

そぅ、匡の背中に…紘一は言った…
< 32 / 39 >

この作品をシェア

pagetop