PRISM « Contract marriage 番外編»
自分に出来ることは…

紘一と悠夏の…2人でいる時間を、少しでも…永くさせること…、それくらいしか思いつかなかった…


匡が、椎堂家の駐車場に車を止め、屋敷に入ると…


奥の部屋から、紘一を出迎えに出てきた悠夏が…

「紘一さん、おかえりなさい…っ!」

紘一を出迎えた悠夏は、満面の笑顔を向ける…

「ただいま、」

先ほどまで、苦痛の表情を浮かべていた紘一は、悠夏の前では、自分が病身であることをひた隠しにする…。

それは、気力なのか、精神力なのか…どちらなのか…。。それとも、生命の最期の灯火なのか…?


匡は、紘一が何故、そこまでするのか…それほどまでに、彼女を愛しているのか…?



その翌日…、
紘一は、悠夏と一緒にいた時に吐血し…、緊急入院をすることになった…

胃を全摘し…、余命宣告を受けた…が、それでも椎堂家に帰ること…、悠夏の傍で普段通りの生活を送ること…を、望んだ…



匡は、真夜中過ぎ…に、紘一に呼び出された…

匡は、紘一の意向で、椎堂グループの傘下の会社に就職し、行く行く…は、椎堂グループの後継者候補になって欲しい…ということで、いまは、一社員として働き始めた…

数年前、グループ会社の就職を拒絶したが…、ここに来てもまた…紘一の意向が自分の選択肢の中にある…ということに…自分なりに呆れた…


書斎室のノックし、ドアを開ける…

ソファにもたれ掛かり…、匡が訪れるまで…瞼を閉じていた紘一…

匡は、一瞬、もう…この世にいないのではないか?…という錯覚に陥った…

恐る恐る…近づく…。。と、その瞼がゆっくりと開き…、生きていた…と、安堵した…

「…あぁ…、おかえり…」

と、微かに安心したように、微笑みながら言った…

こんな、穏やかな表情を、自分に向けてくれたことが…今までにあっただろうか…?


匡は、紘一の目の前のソファに座り…

「大丈夫? 横になった方が…」

「…大丈夫だ。お前…、俺の心配ばかりだな…」

と、その紘一の言葉に、匡は、相も変わらず…この兄も自分のことを気にかけてくれている…と、思った…


紘一は、匡の目の前に、一通の手紙を差し出した…

それが、何なのか…分からなかった…


「俺が死んだら…、悠夏に…
俺が出来ることは、もうこれくらいしか…」

「……」

その手紙は、封がしてあり、中身は分からない…




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