PRISM « Contract marriage 番外編»
恐る恐る…、そのドアの方に近づく…

息子の紘一だった…

「…紘一…っ。今の話…っ」

その、声に我に返った…紘一…

沙也加の顔を見上げる…、その瞳には、涙が溜まっていた…

「…紘一…っ!」

「お母さんは、僕のこと、要らないってこと?」

瞳に涙を溜めながらも…、人の目をまっすぐに見つめ…言う紘一に、沙也加は何も言えなかった…

「僕より…、匡の方が大事ってこと?」

「…あ…。違うわよ。そんなこと…っ
あなたのことだって…、同じように大切よ?
ただ、匡くんは、まだ小さいから…」


「…もういいよ…っ」

沙也加から、視線をそらし…

「紘一、あのね…」

沙也加が、紘一のその腕を掴んだ…が、その手を紘一は、振り払い…

沙也加から、顔を背ける…

「大丈夫だよ、分かってる…。匡は小さいから…お母さんが手伝ってあげなきゃいけないこと、たくさんあるもんね?」

「…紘一…っ」

「僕、宿題あるから…」

と、廊下をかけて行く…

その小さな背中を呆然…と、見つめる…

「あら、紘ちゃん、分かってくれてるじゃない? 頭のいい子だゎ。良かったわね? 沙也加…」

と、その母親の声に、沙也加は、その母親の方を見上げた…

「…そうね…」
《…良かった…!

ちゃんと、分かってくれてる…》

沙也加は、思わず…、ほぅ…っとため息をもらした…

沙也加は、先程の紘一の言葉に、自分はどこかで、自分は2人の子を比べてしまっていたのかもしれない…と、思い直そうとした…

これからは、比べることなく…同じように接しなければ…と。


匡は、すっかり沙也加の母親とも慣れてしまったようで…高い高いをしてもらい、笑い声を上げている…

「もぅ、お母さん! ぎっくり腰にならないでよ?」

と、つられて笑い声をあげた沙也加…

「大丈夫よ。まぁ、なんて可愛い子でしょ?」



その3人の笑い声は、自室で勉強していたはずの紘一の耳にも届いていた…

「……っ」

紘一は、父親の佑一朗から将来は、椎堂家の後継者候補として育てられた為…、父親が望む以上の成果を上げるよう…強いられていた…

いつからか、母親の沙也加に抱き締められた…という記憶も、自分の中では遠い昔の記憶のような気がしてきていた。
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