バツイチ彼に告白したら、予想外に溺愛されて困惑しています。
何も言えない私に、紅林さんは静かに言った。

「優香に…会ったんだろう?」

優香?
誰?

「何を言われた?」

あ、優香って、前の奥さんのことだ。
小泉優香さん。
そうやって、名前で呼ぶんだね。
私のことは“早川さん”なのに。

当たり前といえばそうかもしれないけど、それでもその事実は私の胸を締めつけるのに十分すぎて、心ごとぎゅううと何かに押し潰されるような感覚になった。
鼻の奥がつんとすると同時に、目尻をそっと拭われる。

「君はよく泣くな。困ったやつ。」

自分でも気付かないうちに涙が滲んでいたらしい。
でも、“困ったやつ”とか言いながら、優しく微笑んでくれるのはなぜですか?
涙を拭ってくれるのはなぜ?

「何を言われた?」

何って、ものすごく言いづらいです。
だけど今言わなくていつ言うの?
今でしょ!可憐!
私は自分を奮い立たせて、ゆっくりとそれを口にする。

「…子供がいて、優香さんとやり直すつもりだって。…本当ですか?」

言えた。
言えたけど、思いの外声が震えてしまった。
体まで震えないように、私は両手を胸に押し当てる。
そうしないと、緊張で倒れてしまいそうだからだ。
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